「失われた時を求めて」第五篇「囚われの女」 文庫第十巻「囚われの女Ⅰ」 文庫第十一巻「囚われの女Ⅱ」 プルースト 吉川一義 訳 (岩波文庫)

2022/6/2
文庫第十一巻「囚われの女Ⅱ」 
「私」の心中に生起する嫉妬の動静とそのぶり返しのお話しです。恋愛において双方の思惑がすれ違うのは、それぞれ自分の思い込みを通じて相手を見ているからである事を表現していると思います。
面白く読んだのは、本文に有るパリの物売りの呼び声です。19世紀後半の古き良きパリの呼び声として描かれています。当時のカキ売り・八百屋・伝統のお菓子・魚屋・ガラス屋・鋳掛屋・古着屋等々の呼び声が想像も含めて描写されていて、当時の生活感を表現しています。
第十一巻P311の7行目「~しかし人の心はもっと豊かなもので~」、この人の心の捉えようにはっとしました。確かに人の心は、決心・以心伝心・野心・恐怖心・女心男心・等々豊かなものです。そして、独立した個人としてその人の人間性-人格-において、善き人間性は豊かな心から生じます。あくどい心や優しい心などのように心は豊かなものですが、その豊かさが善き人間性として在る為には善き人間性として努力する向上心が必要です。当然なのですが、決して善き人間性だから悪しき心を有していない訳では有りません。
作曲家、画家、作家の三者三様の芸術家の生き様が描かれていますが、主人公と囚われ女性との関わり合いを興味を持って読みました。主人公の女性に対しての心のその時々ごとの変遷が丁寧に語られています。もちろん、一方的な主人公の女性と関わっている心の変遷を主人公側からお話ししています。その時々ごとの心の変遷を女性側からお話しするとどうなるのだろうかと思いました。
 

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